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カフェのテントの下で~cafe chez nousの12ヵ月~

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2017年 03月 23日

3月のエッセイ 〜 映画と読書、どちらから入る?


たまたまCSチャンネルで好みのタイプの映画を観た。

韓国映画で、
ある夫婦の特別な一日を描いた
『愛してる、愛してない』(2011年/監督イ・ユンギ)。
人によっては退屈してしまうかもしれないほど、
感情を抑えた静かなストーリーだった。

3月のエッセイ 〜 映画と読書、どちらから入る?_f0358090_12073301.jpg
いちばん印象深いのは
ひたすら雨が降っていること。
観ている方の気持ちまで憂鬱になるくらい、
重たい雨の空気や音が充満している。

台風が近づくその日、妻は夫と5年間暮らした家を出て行くことに決めていて
荷物をまとめている。
が、それは全くはかどらず、煙草を吸ったり本に没頭して
時間を引き延ばしているようにも見える。

「タルン サラミ イッソ?」(他に好きな人がいるの?)
妻に別れを告げられたとき夫はそう尋ね、妻は「…うん」と答えた。
普通の韓国映画やドラマだと、ここで激しいののしりあいや大喧嘩に発展…、
のはずが
ヒョンビン扮する夫は「何かを言っても決めたことは変わらない」と
コーヒーを淹れてあげたり
食器を几帳面に包んだりして荷造りを手伝う。
最後の晩餐にとレストランの予約までするような
優し過ぎる男だ。

退屈しなかった理由には、
夫婦の暮らす家が興味深かったことにある。
ソウル郊外の出版団地 (出版にまつわる企業が集まる、国家文化産業団地 )
の敷地内にあるらしい、お洒落なテラスハウス。
建築関係の仕事をする夫の仕事場とランドリールームがある地下から
吹き抜けの踊り場風の部屋がある最上階まで
階段を挟んで部屋が段違いに振り分けられたような造り。
間取りを想像するだけでも楽しい。
編集者である妻の仕事部屋も本棚に囲まれて落ち着きそうで
影響されたわたしは自室の模様替えをしてしまったくらいだ。

隣人には開業医もいて、どうやらエリート層向けの物件。
それにしては雨漏りがしたりサッシの建付けが悪かったりする。
ガスレンジの点きもかなり悪い。
そんな暮らしの細かなディテールも、2人の別れたいんだかやり直したいんだかの
揺れる心情に影響するところが面白い。

隣人の仔猫が迷い込んできたことでストーリーは少しだけ動いていく…。

この映画には日本の小説の原作があった。
井上荒野さんの『帰れない猫』がそれで、
3月のエッセイ 〜 映画と読書、どちらから入る?_f0358090_18352226.jpg
女性作家7人による短編恋愛小説集
『ナナイロノコイ』( 2006年/角川春樹事務所刊 )の中に
収録されている。
(単行本は2003年刊)

こちらも雨降りで、いきなり建付けの悪い雨戸の描写から始まっている。
3月のエッセイ 〜 映画と読書、どちらから入る?_f0358090_18354075.jpg
原作では、人形作家の夫・史行と、フリーの校正者の妻・杏は
夫の両親が残した湖畔の古い家に住んでいる。
2人の職業や家の雰囲気以外は
実に忠実に原作が映像化されていると思う。

数年前、ある企業のサイトコンテンツ制作を手伝わせていただいたことがある。
働く若い女性向けのサイトで、
そこでブックレビューを書く際に
「DVD化されているストーリー」に限定して、自分もかなり愉しんだものだった。
日頃本を読む時にも、わたしはかなりその映像を妄想する方で
だからこそ、映画も楽しみなものになる。
反対に今回のように映画を観てから原作を紐解くのもワクワクするもの。

読書も映画鑑賞も2倍楽しくなる方法だと思っている。





by paris-jacob | 2017-03-23 15:33 | 映画 cinema | Comments(4)
Commented by Tetsu at 2017-03-25 07:30 x
まりこさんは韓国語がわかるので、韓流映画も楽しめますね、
キルト(ポシャギ)の取材でソウルへ行ったことがありますが、文字、言葉共に全くわかりませんでした、最近は駅名などで併記されているので見ますが、チンプンカンプン。
読書時間も少なくて、、、
昨日は日帰りドック・2Lを飲む間に病院蔵書を。
ホイチョイプロダクションズ・気まぐれコンセプト
面白かったので今朝アマゾンで注文。(完全版)が新しく出ていました。
文学部出身者が
最近読んだのは、畑中三応子・カリスマフード
畑中さんの(ファッションフードあります)(健康に良い食べ物はなぜコロコロ変わるのか)に続く!
面白かったですよ。週刊文春、週刊金曜日(懐かしい)にも書評が。
Commented by paris-jacob at 2017-03-27 13:53
Tetsuさん
いやいや、分かりませんてば韓国語。
韓流華々しき頃に観まくったものですから、
こういうティピカルなセリフには滅法強いんですの(笑)。
ポシャギもソウルから布を取り寄せてチクチク作りました。
あの情熱は何処へ??(そのポシャギ本、頂きました^^)

わたしの読書時間は寝る前にベッドで、です。
何か読まないと眠くならなくて、
物語からふぅーー、っと夢の世界に入る時が気持ちいいんです。
時々、本持って固まったままってこともあります。
『ファッションフード』、面白かったですね。お元気かしら?畑中さん☆
Commented by Tetsu at 2017-03-27 17:31 x
はい、仕事の機会が減りましたが、先日事務所へ行ったら相変わらず元気でした、入院中の母上に毎日手作り茶碗蒸しを持って行くそうです、今日のFBにはその茶碗蒸しの出汁について、研究中だとか。
畑中さんと昨年末に銀座の(ブションドール)で撮影した(コンフィ)の本が先日出版されました、僕の出番は少しでしたが、(ブションドール)お薦めです、パッションさんの(イルドフランス)のシェフだった東さんのビストロ、昼は
千円ランチがあります。
カリスマフードも是非!
Commented by paris-jacob at 2017-03-30 11:33
Tetsuさん
そうでしたか。皆さんそういうお年頃ですよね。
入院中に茶碗蒸し届いたら嬉しいだろうなぁ。
代官山の『パッション』はOVNIで取材したときに、
あの巨大な暖炉で焼いた肉料理を堪能しました。
正統派フレンチですよね。銀座で千円ランチはGood!!!


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